『The Old Contemptibles』S&T228,2005,DG

『The Old Contemptibles(S&T228)』は1914年8月、シュリーフェン・プラン成就のため、火の玉となってベルギー領内を驀進するフォン・クルックの第1軍を、イギリス大陸海外派遣軍(BEF)が迎え撃ったモンスの戦いをシミュレートしている。といっても、開戦初頭の大機動戦の最中の戦闘なので、イギリス軍は一旦持ちこたえたら全面撤退することになっているので、ゲームが扱う期間は2日間(全14ターン)だけだ。塹壕線への移行などまだ先の話。戦線がのたうち回るような機動戦になる。

マップは、中央北寄りの位置に、コンデ運河が東西に走り、その東端にモンスの市街、運河の西はコンデの街で締めくくられていて、さらに西は明け広げの平地になっている。地形で特徴的なのが、運河と市街地。
運河は橋梁(道路が繋がっていない鉄道橋もある)でしか渡ることができず、7本の橋がかかっている。ゲームでは第1日目(第7ターン終了)のうちに、指定の6本の橋をドイツ軍が支配していたら、サドンデス勝利となる。
市街地は、運河の南側に広がる灰色の地形全てで、ユニットは市街地ヘクスにZOCを展開できない。また市街地の中には工場と呼ばれる地形があり、これは後述する砲兵のLOSを妨げる。

イギリス軍はすべて固定配置。増援もない。ドイツ軍も、まず第9軍団と第3軍団が所定の道路から登場。第4ターンには第4軍団が、これも所定の道路から登場というもので、これらはどう機動しても自由。ただし、スタック制限は5スタック値までで、ユニットは基本的に大隊規模。ところがドイツ軍は連隊規模となっていて、1ユニットで4スタック値ももつので、ほぼ単独で運用することになる。この歩兵連隊は4ステップを持ち、戦力は8から4,2,1と減少する。戦闘結果はステップロス型の上に、攻撃側に損害が出やすいタイプのゲームなので、消耗は早い。また、スタック制限は移動中も常に適用なので、あまり前線に敷き詰めすぎると、消耗した部隊を後方に下げる際に渋滞でにっちもさっちもいかなくなる。

戦闘は、まず砲撃、次に白兵戦となるが、白兵戦に突入するまでに防御射撃があり、この損害は即座に適用される。ドイツ軍2個連隊が防御射撃を2発食らって、16戦力からいきなり8戦力に半減などという事も充分あり得る(ちなみにこんな事を平気でやらかすドイツ軍は絶対に勝てない)。

ユニークなのはシークエンスで、ドイツ軍は移動・戦闘の順序が固定なのだが、イギリス軍は、移動/戦闘、移動/移動、戦闘/移動、戦闘/戦闘の4パターンから、ターン毎に1つを自由に選択できる。ただし、ドイツ軍ユニットは敵に「隣接」しない条件で、移動力倍の行軍移動が可能だ。

都合3度ほどプレイしたが、このゲームの細かい展開を報告するのはやめておきたい。まず一度、勝利条件を熟読して対戦してみるべきだろう。このゲームの面白さは、それぞれのプレイヤーが勝ち方を発見するプロセスにあるし、やってみると割と簡単に発見できる。ドイツ軍としては、このゲームで勝つための選択肢は1つしかない。問題は、その発見に対して、3つの軍団をどのように投入するかにある。


第7ターン、ドイツ軍フェイズ終了時。イギリス軍(管理人:赤)vsドイツ軍(さばげ氏:その他)
ここからイギリス軍の総撤退開始。快感の瞬間だ。

イギリス軍は、まず第7ターンが終わるまでは、最悪でも運河橋を1つ確保しなければならない。その後は、総撤退戦だ。以下の3条件
(条件1)9個以上のユニットを南端から逃がす
(条件2)ユニット損失を20個未満に抑える。
(条件3)BAVAYを守りきる。
ゲーム終了時にこのうち2つを堅持していれば、イギリスの勝ちとなる。BAVAYに分厚い円形陣地を張って凌ぐというアイディアもあるが、指定の盤端ヘクスに連絡線が繋がらないユニットは除去扱いなので、無駄な抵抗だ。結局、堅く守って、損害を押さえて、素早く逃げる。これがイギリス軍の方針となる(なんか、イギリスってこんな戦いばかりしているイメージがある)。

だが、実際にプレイするとそんな簡単な話ではない。まず、イギリス軍は大隊規模だが、配置位置もちぐはぐで、無計画に盤面に散らかっている状態だ。対してドイツ軍は、シュリーフェン計画を実現せんとするただ一途な思いから編成された、まさに戦闘機械。たっぷりとした準備砲撃の後に攻め寄せられれば、個々の戦闘ではひとたまりもない。また、市街地ではZOCが機能しないことから、運河や河川を明け渡し、安易に戦線を下げると大変なことになる。戦線に穿たれた突破口を繕う力は、イギリス軍にはない。

これ以上は、本当に話せない。ゲームの魅力が半減してしまう。展開を知ってこそ面白さを増すゲームも確かに存在するが、これは逆だ。無粋な作戦研究が対戦の楽しみを大いに損ねてしまうと思う。1プレイは3時間くらいで終わるのだし。

途中の展開の写真だけ掲載するので、なんとなく予想して欲しい。ちなみに赤色がイギリス軍(筆者)、白・黒・灰色がドイツ軍(さばげ氏)である。さばげ氏は初対戦だったことを言い添えておく。


第9ターン、モンス方面からの撤退がちょっとやばい感じ。足止めユニットで追撃を凌いだが、孤立状態で除去されたユニットは(条件2)に対して2ユニット分で計算されてしまうので、お勧めできない。

一度失敗があったら、どちらも取り返しがきかない。だが、ここで言う失敗とは、戦術レベルの話ではない。戦略方針の立て方のことだ。どちらの軍でも、考えてプレイしていれば、自分が犯した過ちにはすぐに気づく。もちろん、相手が犯したミスはもっとはっきり見える。従って、2度目の対戦に俄然力が入る。片方が初対戦で、もう一方に3回もプレイ経験があれば、ドイツ軍なら完封され、イギリス軍なら盤面から一掃されてしまうかもしれない。敵の打つ手を予想し、先手先手で進めて行くところにこのゲームの快感がある。誤解して欲しくないのは、戦略方針を見つけたらそれで終わりのゲームではないと言うことだ。むしろ互いの手が予想できる段階になって、初めて、思考競技としてのゲームがスタートする。主攻軸をどこに置くか。いつ撤退するか。砲撃は。行軍移動は。与えられた様々な要素を全て駆使して、相手をワナに絡め取る必要があるからだ。

『The Old Contemptibles』とは、カイザー・ヴィルヘルムがBEFを指して罵った「矮小な卑怯者(Little Contemptibles)」という言葉を逆手にとって、BEFの将兵自らが好んで使用した愛称のことだ。

空前のスケールで始まった第1次世界大戦は、何から何まで想定外の事件が重なって、試行錯誤を繰り返しながら型ができあがった戦争だ。理屈ではなく、体験から戦争を学ぶとはどういう事なのか、このゲームのイギリス軍をプレイするとよく分かる。イギリス軍が即席でドイツ軍のまねをしながら、小憎らしい遅滞戦術で逃げて行く様を見たドイツ軍プレイヤーは、きっとカイザーと同じセリフをつぶやいていることだろう。■

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